●スパイス屋さんになる③
スパイスの小袋に付ける内容表示をシール用紙に手書きしている。
って書いたら予想外に驚かれてしまってこっちが驚いているの。
え、わたしそんなにヘンかな。
黙って見ていた壮二郎も
「いやあ、まさかホントに手書きするとは。みさおってクレイジーだよね」
と笑ってるんですけど。
ヘンだと思うなら書いている時に言ってよ。
さすがに18枚目くらいになると
「わたしどうしてこんなことしているんだろう」
と、疑問が湧いてくる。
遅いか。
疲れ果ててついよろよろとベッドに入る。
起きているのに何故か自分のイビキが聞こえる。
意識は目覚めているのに身体が寝ている状態になっちゃうこの分離感。
これって幽体離脱するんじゃない?
シール手書きの疲れで幽体離脱するってヘミシンクもびっくらじゃない?
でもその時、ハッと閃いた!
ガバっと起き上がる。幽体離脱は中止よ!
そうだ、コピー用紙に升目を書いて、そこに内容表示を書いてそれをコンビニでコピーすればいいんだ!
そしてハサミで切り取って、包装用紙に糊で貼ればいいんだ!
素晴らしい!
斬新な発想!
わたしは知恵の袋よ!
忠臣蔵における千坂兵部よ!
とめどなく湧く知恵の泉だって言ったじゃない!
枯れることを知らないのよ!
頑張ってA4に1枚書けばそれを無限にコピー出来るんだもん。
と、コピー用紙を出してすぐに頓挫したの。
だって升目を引く定規がどこに行ったかわからないんだもん。
ダメ人間の特徴はモノの行方をいつも探していることよ。
探し疲れて、もういいわ。とパン生地を延ばす時に使うシート(定規の模様付き)を利用して線を引くことを思いついた。
フフ、生活の知恵よ。
難しいのよこれが。
紙に正確な升目を引くって不器用な人間にはハードル高すぎ。
線を引くのを諦めて、折り目をつけるという方針に変更したのだけれどね。
ご想像通りよ。
何度もやり直して紙がゆらゆらしてるわよ。
それでも諦めないわ。
そうよ四角じゃなくてもいいじゃん!
と瓶の蓋を紙の上に置いてそれをなぞるという方法もやってみた。
名刺を半分に切ってそれをなぞって四角を作るという方法もやってみた。
全部ダメだった。
なんだか全てが嫌になってしまったの。
もう止めようかなあ。と思った時に閃いた!
そうだ、アイパッドプロのプロクリエイトがあるじゃん!
その画面だと線画ガイドがあるから升目引けるんだ!と。
いまプロクリエイトでコツコツ書いています。
やっと成分表示4枚目です。
大きな声で言えないのですが、右手の人差し指が筋肉痛です。
でも頑張ります。
●もぐら時間②
あまりにも寒いし、スパイス発売のためのまさかの内容表示の手書きという内職に押されて疲れ切ってしまったのよ。
こんな時には岩盤浴に限るわよ。
全員もぐら色の湯衣を着た女がゴロゴロと転がっている場所。
受付で
「ロッカーのカギを失くした場合には5000円いただきます」と念を押されてロッカールームに行く。
そのロッカーがとても狭いのよ。
ユニクロのダウンが溢れそう。
「ゴミ捨てにちょうどいい」と思って買ったのが散歩用になり、
「新札幌の買い物もこれでいいか」と着るようになり、いまでは地下鉄に乗っての岩盤浴もユニクロのダウンになっちゃったよ。
クラス会にもユニクロのダウンで出かける日も近いな。クラス会なんて呼ばれたことないけど。
そのダウン一枚をかけるだけでロッカーはもう満杯。
そこに無理やりバッグや湯衣のはいった袋を押し込む。バッグに押されてダウンがハンガーから滑り落ちる。
もうごちゃごちゃよ。
なんとか脱いだ服も押し込み、まずはお湯に入ろうとするのだけれど、高齢者割引で入館したおばあさんグループが湯船の前にたむろしているの。
ああ、ホント迷惑。
イライライラ。
タオルが無いの鍵が無いのって大騒ぎしてるのよ。
「せっかく割引で入館してもロッカーキー保障代払うと高くつくわよね」
と意地悪い気持ちでばあさん軍団を見ながら、ゆっくりゆっくりお湯に浸かる。
ああ、目の奥がほぐれるわあ。
頑張りすぎて食いしばった奥歯もほぐれる。って歯槽膿漏じゃないよね。
ぐったりするほどお湯に入ってさあ、岩盤浴!とロッカーに向かったら。
鍵が無いの。
温まった身体が突然冷える感覚。
浴室に戻る。
通路をよくよく見て歩く。
もう一回浴室に戻る。
ああ、無い。
さっきばあさん軍団を嘲笑ったバチが当たっちゃったのかな。
こんな時一人で来ているって辛いわ。
「あれ、困っちゃった。失くしちゃった」って相談できる人がいないんだもん。
受付に
「鍵が無いんです」って言いに行くのにもわたしは丸裸。
落ち着けミサオ!
こんな時は深呼吸よ。
心の中の自分に相談よ。
これからどうしたらいいか、自分に深く入り込んで聞くのよ!
と、裸でじっと立っていると冷えちゃってトイレに行きたくなっちゃった。
ショックと冷えで震える手を洗っていたら鏡に映った自分の姿。
ああ、髪の毛を縛るゴムを忘れてロッカーキーでまとめていたんだった。