●ツインバード
子ども達が幼い頃はわたしかなり頑張っていたと思うのよ。
1人抱っこ1人おんぶ1人足にまとわりつく状態でお米を研ぎながら洗濯ものを取り込んでお風呂を洗いつつ大根を刻んでいた。
芸に例えるならスケボーに乗りながら傘の上で鞠を廻すくらいの難易度だったと思う。染之助染太郎より上。
でも気がつくと一度に一種類の仕事しか出来なくなっていた。
ピーマンの肉詰めを作り上げたのにサラダはまだ水切りもしていない。
コーヒーを淹れるのとトッピングの生クリームの泡立てが同時に出来上がらない。
メールをしている時に話しかけられると反応出来ない。
「みさおってどうして返事しないの?」
「どうして洗濯機の前で脱水終わるの待っているの?」
子ども達が不思議そうに言う。
だって、ひとつのことをすると他のこと忘れちゃうんだもん。
あるとき子どもの1人が納得した様子で
「ああ、みさおはツインバードなんだね」と言ってそれ以来
「ツインバードだから仕方ない」
「ツインバードにしては頑張っている」
となんだか平和になった。
ツインバードってね、10000円で買える電子レンジなの。
温め機能のみ。それだけ。単機能。わたしも単機能。
焼いたり揚げたり蒸したりできる高額な電子レンジとは作りが違うんだね!って子ども達納得しやがったのよ。
そのツインバードの電子レンジも壊れてとっくに捨てたわ。電子レンジは無くても困らない。
傘の上で下駄も廻すことが出来る染之助染太郎は死んじゃった。
わたしはまだまだ生きてやるわよ。
色んなことやろうとすると壊れちゃうわよ。
温めるだけ!
●女は永遠に17である
新札幌駅の改札口で待ち合わせているオバアサンを見た。80オーバー。
首を傾げて肩のところでパッと手を広げてひらひらさせて「久しぶりい」。アイドル時代の柏原芳恵と河合奈保子がザ・ベストテンのスタジオで出会ったときみたい。
車内で隣に座っちゃったんだけど喋っている内容が
「あの人とあの人が付き合っている」
「あの人は意地悪で仲間外れにする」
よく見たらお揃いのバッグと色違いのストール。
ああ、尊敬する山本夏彦さんが言っていた。
「女は永遠に17である」って。
80年を超えた着ぐるみを着ているけれど中身は17歳なんだなあ。
わたしも56年ものの着ぐるみを着ているけど恥を忍んで告白するなら心のどこかでは
「いつか王子様が」と思っているもん。
車内が混んできたんだけどね、優先席を指差して
「あそこの席に座るとおばあさんみたいで嫌よねえ」って笑ってるの。
17歳なんだもん当然よね。