みさおのデパート物語番外編「デパートの従業員食堂」

デパートで働き始めたのだけれどね。

お昼は当然従業員食堂で食べるわけよ。

そうよ。

それが問題よ。

ねえねえ、デパートの従業員食堂って行ったことある?

わたしは計4か所のデパートで働いたからね。デパートによって様々だったけれども共通しているのは

美味しくなくて、落ち着かなくて、心が荒むってことかな。

 

 

初めて働いた①デパートの従業員食堂。

大型のデパートだもん、食堂も広いわよ。

教えて貰った通りに食券買って、お盆持って並んで、空いた席を探して座るんだけれどね。

もうなんでもいいよ。

醤油ラーメンにしておくよ。

小学生の時に行ったドライブインにあるようなラーメンね。

メンマちょっぴりに麩がのっかているのね。

麺は札幌だから西山製麺かもしれないけれど、濁ったお湯で茹でているから伸び切った麺よ。

柔らかい!歯いらん!ってのね。

 

まず、空いた席がなかなか無い。

お、一番前の良いところが空いている!

と、そこに座ろうとしたら

「そこはお偉いさんたちの席だから」

と冷たく注意される。

へ、そうなんだ。

みんなで安っぽい定食を食べる従業員食堂でも

「お偉いさん用」の場所があるのね。へ、そうですか。

で、また空いた席を見つけて座ったら呉服もしくは宝飾品売り場と思われる和服軍団が

「そこはいつもわたしたちが座っている場所だから」

と追い出されるわけ。

フンだ!

ここで話逸れるんだけどね、わたしは「陣地取り」する人が大嫌い。

近所の銭湯のサウナに行って、テレビの前の席に座ったらパンチパーマの婆さんに

「そこはいつもわたしが座っている席だから」

とすごまれた。

日帰り温泉のご飯処に亀子と行った時には亀子ファンの爺さんたちが奥の席に陣取っていて

「ここはいつも俺たちの席なんだ」

と威張っていた。

「自分の場所だ」

って主張するならそこの土地を買い上げてから言ってよね。

ほんの0.5坪買い上げたらサウナでのびのびできますよーだ!

「いつもいるから」

「昔から通っているから」

っていう、わけわかんない理由で自分の陣地だって主張する人とはわたしは仲良くならないからよろしく。

サウナの中で牢名主状態になりたいならせめてその場にいる人全員にポカリスエットでも配って歩けよバーカバーカ。

って思った。

10年も前のわたしだから言えなかったけど今なら言えるぞ。

あ、そうそうデパートよ、食堂よ。

 

やっと席に着く

やっと空いた席を見つけて座ると、隣に大声のオバサン軍団が来る。

頭には三角巾、かすれた声。

食料品売り場のオバサングループだあ。

のびた醤油ラーメンを食べながらなんとなく見ていると、ん?食堂のお茶だけをなみなみとついで持ってきてるんだ。

あ、お弁当持ちかな?

エンジ色三角巾のオバサンは、

「ズバリ当てましょう!あなたは中学時代にソフトボール部のキャッチャーでしたね」

っていうショートヘアに粗い肌質。

なんとなく周りを伺いながら透明の店内バッグからビニール袋を出す。

その袋の中には地下で売っていたと思われるお惣菜が5種類くらい一緒に詰め込まれてるの。

和食なんだけどビビンバ状態ね。

げ、それを食べるの???

 

細面の紺色帽子のオバサンは

「鑑定いたします。あなたは美人のスケバンを経て『純喫茶 真琴』のウエイトレスになり、再会した幼馴染と結婚しましたね」

という風貌なんだけど

白いものが入ったビニール袋を振り回しているの。

ん?

なんだ?

ねえ、なんだと思う?

売り場のご飯をビニール袋に詰めて持ってきたのよ!

それをぶんぶん振り回して遠心力でおにぎりに成型してるの。

ホントなんだってーーー!

漬物売り場のオバサンは透明バッグから茄子の漬物を嬉しそうに出す。

遠心力成型おにぎりと、ビビンバ状のおかずと、茄子の漬物をワイワイと食べるオバサン達を見ているとげんなりしてそっと窓際の一人座り席の人達を見ると

皆さん、本や新聞を読んでいる。

あ、集団で騒いでいる人よりも静かに読書している人っていいなあ。

ん?

何故か縦書きで大きい活字のフリガナ付きの本を読んでいる。

あ、お経なのね。

読売や朝日じゃない新聞を読んでいる人。

ナントカ先生を称える記事だらけのね。

いかにもガイジンが描いた世界の終わりの絵のついた本。

ああ、高校時代の同級生もその会に入っていて、布教の旅に出たっけなあ。

窓際一人席は宗教ゾーンだったわけ。

スミマセンここもわたしの居場所じゃありませんでした。

 

ほんの4カ月前のわたしは小学生と幼稚園児を抱えた、離婚問題泥沼の主婦だった。

あの時、神戸で大きい地震が起こったり、オウム事件が起こったりして

「この先日本はどうなるんだろう」

と不安だった。

「この時代、先が読めないな」

と思ったには思ったけれど、まさか札幌のデパートの従業員食堂で遠心力おにぎりを目撃するとはねえ。

ミサオ負けない。

頑張る。

 

伸びたラーメンを無理に飲み込む。

ちゃんと食べて元気つけて頑張るんだもん。

ああ、でも食べ終わった食器を下げる場所が左前にあってね。

わかる?食べ残しをざっと捨てて、お皿をお湯にどぼんといれて、そのお皿をゴム手のオバサンがさらっと一周だけスポンジで撫ぜてかごに載せるゾーンよ。

そこに張り紙がしてあって

「残飯は豚の餌として再利用しますので、割り箸や爪楊枝を混入させないでください」

って書いてあったの。

ダメだ。

残飯を食べる豚の映像が浮かんじゃったよ。

わたし食べられない。

気が小さいとか神経質と言われてももう無理。

 

これが①デパートの従業員食堂レポね。

味★★☆☆☆

価格★★☆☆☆

環境★★☆☆☆

ってとこね。

わたしがその後に勤めた口にするのも怖ろしい春屋デパート(仮名)の食堂と比べたら天国だったけどね。

 

 

 

 

 

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