●「みさおの三段論法」
ラッサム雑煮を食べながらつい
「食べると痩せる」
と、呟いてしまった。
そ、これはかの有名なみさおの三段論法なの。
なんだそれ?って?
例えばね。
デパートで普段は高くて手の出ないお高い靴が半額で売っているとするでしょ。
半額でも高いけれども、買わずにはいられないよね。見つけたからには。
そういう時に自分で自分を説得するのよ。
「お買い得よ」
いやいや、それだけではない
「買わないと損」
いやいやむしろ
「買うとお金が貯まる!」
ここまで思い込んで買うわけ。
積極的思考よ。
あはは、なんだこりゃ。
で、いかにも太りそうなものを食べるときにも自分で自分を洗脳するのよ。
「食べても太らない」
いやいや、むしろ
「食べるとかえって痩せる」
ちがうちがう!
「これを食べないと太ってしまう」
ね、食べないわけにはいかないよね。
自己催眠を超える自己洗脳!
肯定感に充ち溢れるわけよ。
で、どうなるかというと、お金も貯まらないし痩せないけどね。
いいの!頭の中は充実感。
みさおの三段論法。
講座開こうかな。
●模様替え
ゴールデンウィークに実家に帰った美也子ちゃんに会った。
わたしたち56歳。親が生きている場合はボケかける頃合いよ。
美也子ちゃんのお姑さんは何故か家の中を大胆に模様替えをしていたと、浮かない顔をしていた。
興味津々で詳細を聞きたがるわたしに一例として
「仏壇の横に、今まで物置に隠しておいたと思われる古いオルガンが鎮座して、その上に嫁いで以来その存在さえ知らなかったブラザーの編み機を置いてあった」
なんだ、その唐突な感じ。
ヘンな模様替えするってやっぱり脳内危険ってことよね、仕方ないよ。年齢が年齢だもん。
と言いながら自分の過去を思い出した。
母、亀子(仮名)は模様替えが趣味だった。
あれは小学校の低学年の時、学校から戻るとわたしの勉強机の上に「世界文学全集」や「百科事典」がびっしり入った本棚が載せてあった。
天井まで届きそうな本棚。
「あなたは本が好きなんだからすぐ読めていいでしょ」
という亀子の言い分。
ある日突然地主から土地を半分取り上げられた小作人の気持ち。
父はどうして
「それはおかしいでしょ」
って言ってくれなかったのかなあ。
しばらく我慢したら、また違う模様替えをした。
かの有名なオイルショックが来たのよ。
トイレットペーパー不足よ。買占めよ。
父の職場で仕入れているトイレットペーパーを家庭用にも買ったの。
あれは何百個あったのだろう。
業務用なので一個ずつ紙で包装されているタイプね。
わたしの勉強机はトイレットペーパー置き場になっていた。
本棚の替りにうずたかく天井まで届くトイレットペーパーよ。
乾いた笑いしか出ないよね。
こんなこともあった。
片腕を骨折して三角巾で吊っていたはずの母、亀子が何故かテレビを一階から二階に一人で運んでいたの。
当時のカラーテレビは立方体に近く、大きく重いものだった。
片腕と太ももを使って一人で二階に運んだと誇らしげな亀子の太ももは内出血で真っ青になっていたっけ。
どうして急に二階の子ども部屋にテレビを運んでそこを居間にしようとしたのかは誰にもわからない。
そして、何より悲しいことは当時の亀子はまだ30代。
美也子ちゃんのお姑さん80代に先駆けること50年。という事実よ。