みさ日記「大きい電話ください」

●大きい電話ください

テレビは観ないし新聞もいらない。固定電話ももういらないよね。って解約してもう何年かなあ。

店内にクリスマスツリーが飾ってあったから4~5年前の冬だったと思う。auのカウンターで「スマホとネット回線と一緒にひかり電話とひかりTVをまとめて」と熱く勧めるお兄さんに「わたしガラケーとiPadminiでいいの。スマホみたいなちっちゃいの見えないもん。あ、ガラケーにメール機能つけないでね。月々300円でも惜しいわ。テレビ見ない。黒電話もいらない」とそっけなく断る。「固定電話だろ?いまどき黒電話なんてねえよオバさん!」というお兄さんの心の声が聞こえたけどね。気にしないもんね。

多分「スマホネットテレビに電話」というゴージャスセットが出るとボーナスポイント倍増で年末の査定が上がる仕組みなんだろうなあとはわかる。スーパーひとしくん欲しいよね。

「ガラケーとiPadminiにネットのみ」となるとリーダーのお兄さんは明らかに投げやりな態度になり事務処理を新人っぽいおねえちゃんに丸投げした。フン、気にしないもんね。わたしが満を持しておばさん業界に参入して何年たってると思ってるのよ。携帯業界の激務で青ざめている兄ちゃんに冷たくされて凹むくらいならとっくに人生諦めてるってば。

手続きの最後にガラポンを引くのが一連の作業を締めるかつ花形タイムね。ここで青ざめ兄ちゃんが気を取り直して登場。わたしが引いた黄色の玉を見て青ざめ兄ちゃんは凄く嫌そうな顔をしてダイソンの掃除機を持ってきた。あらあ一等賞なのね。

思えば長太郎も昔1円携帯(昔そういうのがあった)を更にポイントを利用してたったの2円の現金までも節約して2台契約して一等賞のルンバを2台当てたことがあった。八島家は携帯と掃除機が紐ついている家系なのだろうか。ま、神様が「掃除しろよ」って言ってるのかな。

もう明らかに嫌そうにわたしに掃除機を渡す兄ちゃん。青ざめ兄ちゃんにそんな思いまでさせたせっかくの掃除機は殆ど使わない。何故なら我が家は棕櫚の箒で掃除をする旧式の家庭なのよ。

何の話だっけ。そうよそうよ。電話よ電話。固定電話。わたしは携帯と区別するための「大きい電話」と呼んでるんだけどね、もう一生自宅に置くことはないだろうと思っていた。

お喋りするには自分のガラケーの話し放題で十分だし、壮二郎なんてフットサルの予約の時にしか自分のガラケーは使わないもんね。

だけれど壮二郎が急に必要だと言い出したの。

えーーーーーー、今さら大きい電話を??

南インド屋が業績好調なので会社にすることにしたのよ。個人事業主のままで何の不便も無いのだけれどもホラ、会社を立ち上げてみるってなんだか楽しくない?新しいことするって面白いよね。世の中の人が楽しんでいると思われる釣りもキャンプも山登りも居酒屋もパチンコも競馬もサーフィンもしない南インド屋ABにもってこいのほら、あれよ。ワクワクする!ってのよ。

昨夜楽天の一番安いお店で社判と実印を注文した。もちろん「運気が昇り龍」「繁栄を約束されている」「あなたの運命を変える」といった効能はゼロ!水牛だ象牙だマンモスの牙(ホントにそんなのあるのよ)でももちろんない。木よ木。柘植かなんかね。

会社名とか壮二郎の名前をよみにくい文字にちゃーんと変換してくれて6000円ちょっとのケース付き3点セットよ。3日で札幌まで届くんだってー。これで充分だわよ。高いハンコ使って会社を成功させるのは他の人がやればいいのよ。わたしは字画も方角も日付も全く気にしない。何故なら自分が宇宙の中心だから、全方位が吉!全ての日が何でもない日おめでとう!なのよね。

だから何の話だって?そうよ電話よ電話。大きい電話。

さっさと大きい電話の契約をするのがわたしの仕事。と、ひかり回線ってのを大きい電話つきに変えるだけよね。「ネット回線に大きい電話つけてください」って頼めばいいんだもんね。簡単。朝9時になったらKDDIのコールセンターにすぐに電話をしちゃう。さっさと終わらせないとね。

感じの良いKDDIのコールセンターのお姉さん。わたしも感じよく「あ、吉田さんですかよろしくね」なんて言っちゃう。わたしってホラ、だいたいがゴキゲンなオバサンだからね。つまりauのガラケーとKDDIのインターネットに大きい電話をつけるだけなのよ。ぴゃぴゃっとつけてね。電話機はヨドバシカメラに頼んだら翌日来るからね。とかるーい気持ちだったのだけれどね。え?My auなんだそれ。そんなの見たことも聞いたこともない。と言い張るんだけど吉田さんは「開けた履歴があります」と。え?ID?パスワード?何それ。misaoかな。違うか。ん番号なの?1121(わたしの誕生日)かな。違うよね。いちいち「じゃあね、大好きだった人の誕生日ね」「えっとね、30年前に亡くなった父の誕生日かな」「あ、やっぱりそうりょうちゃんの誕生日かな」「えーー!しんくんの誕生日にしたのかなあ」と延々と吉田さんとのやり取りが続く。

やっとMy auだかが開けるようになって、吉田さんとの電話は切ったのだけれど、これからが長い道のりだったわけ。え?My auってガラケーとインターネットで別なの?えっとえっとipadminiは格安simに変更したんだった。え!会社名義にするってなるとauだけじゃなくてBIGLOBEにも連絡するの?わたしはauつまりKDDIと契約したつもりなのにBIGLOBEなんて会ったこともないわよ。というかKDDIとauってどうして名前違うのよ。仮面ライダーと本郷タケシみたいな感じ?それともウルトラマンタロウとウルトラの父?

えっと、えっとまたIDとパスワードを忘れないように書き留めるのだけれどいつものわたしならば書いた紙を一瞬で失くすのよねえ。よし、こんな時は。と100均で買って全然使っていなかったポストイット風のメモに書いてノートパソコンに張り付けてみる。これで失くさない。パソコンの埃のせいなのか扇風機のせいなのかそれとも経年劣化したのかパスワードを書いたポストイットもどきはあっという間に飛んでいく。メモを追いかけている間にそれが何のパスワードだったのかを忘れてしまう。真剣に問題を解決しようと穴が開きそうになるくらいにパソコンを次々とクリックしているのだけれども「あれ、いま何をしていたんだっけ?」とわからなくなってしまう。何度も電話をするのは恥ずかしいのでチャットでもauの人に質問をする。9時から始めた作業はお昼になっても終わらなくて、ああ早番の吉田さんは休憩室で「今日朝イチでババ引いちゃったよ」「わかるー!札幌の八島操!わたしそのあと続きやったよお」「もうセンター長に丸投げしたいよねえ」「八島操の電話だけ着拒にしたいよねえ」とお弁当食べながらしゃべってるのかなあ。

わたしはただ大きい電話をつけたいだけだったの。そしてできれば大きい電話とガラケーとネット回線を一緒のお支払いにしたいだけだったの。やっと作業が終わった時には14時を過ぎていた。オペレーターが「これで手続きは完了です」と言ってくれた時には涙が出そうだったわよ。あああ。やっと我が家に大きい電話がついた。番号は…えっとえっと何番だっけ。確かさっき忘れないようにどこかに書いたはずなんだけど。と充血した目でメモを探すけれどわかんないよ。でね、最後にもう一度auに電話しちゃった。さすがに恥ずかしくて「あの。顔が見えないので恥を忍んで聞くのですがわたしがいまつけた大きい電話の番号忘れちゃいました」ってね。聞くはいっときの恥!聞かぬは一生の損だもんね。

こんな苦労をしてつけた我が家の大きい電話はわたしのガラケーが見当たらない時に探すのに使うのと、知らない婆さんが何度も「JCOMですか?」ってかけてくるだけ。「違います」って言ってるのにしつこくかけてくるのよ。ああ年寄りってホント迷惑!ってわたしもだわ。

 

 

 

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