昭和歌謡シリーズ「ホテル」島津ゆたか

寝坊したあとで昼寝をする。

草ボーボーの庭をうっとり眺める。

ついでにアリがアリの巣コロリに誘導されるかをじっと観察する。

「みさおのおやつ引き出し」にはいっている六花亭のおやつを食べる。

気難しい顔をしてパソコンに向かっている白二郎に脈絡なく話しかけて鬱陶しがられる。

でも気にしないで喋り続ける。そして

「みさおって幼稚園をさぼった子どもみたいだよね」

と言われるけど気にしない。

毎日こんな暮らしをしているんだから当然ゴキゲンで

「せつなさ」って何だっけ?

「耐え忍ぶ」ってどんな気持ちだっけ?

と、心がどんどん日なたで干したお布団みたいにほわほわしてくる。

細かいことも、悔しかったこともどんどん忘れる。

 

なのに毎日「ホテル」を歌ってるの。

正確に言うと

「ホテルで会ってホテルで別れる」のフレーズを繰り返すだけ。

 

この歌詞、天才の仕事だと思う。

なかにし礼だよね。作詞。

ショーケンの何代前かの奥さんのいしだあゆみの妹の石田ゆりの夫だよね。

このフレーズって

「地元じゃ負け知らず」(青春アミーゴ)

「盗んだバイクで走り出す」(15の夜)

と並ぶ「天才歌詞御三家」に認定されてるんだよ。

あ、勿論わたしが認定したんだけどね。

ねえねえ、「ホテルで会ってホテルで別れる」のホテルってどんなホテルだろうね。

男が先にチェックインしているんだよね。

ホテル内の夜景の見えるラウンジには連れて行って貰えるのかな。

それともビジネスホテルのシングルにこっそり女を連れ込むケチンボかな。

あの駐車場の入り口に目隠しが七夕飾りみたいにある古めかしいラブホテルかなー。

と、妄想を次々と喋るんだけど、白二郎はあんまり相手にしてくれないの。

 

わたしにはまだまだお嬢ちゃんの友達がいるんだけどね

「年上の彼とはホテルのデイユースでしか会えないんです」

という話しを聞くと

「ええええ!それリアルホテルで会ってホテルで別れる?」

と色めき立っちゃうんだよね。

ゴメン。

母親ほどの年齢のわたしに思い切って打ち明けてくれたんだよね。

でも、なんだか芸能人を街で見かけたような感覚って言うのかな。

つまり嬉しい。

物見高いわたしに相談したのが間違いだね。

 

カラオケで歌おうとしたらね、ぜーんぜん歌えないの。

だって「ホテルで会ってホテルで別れる」のところしか知らないんだもん。

あとは御詠歌状態よ。

 

歌詞を知らない若者のために続きを書くとね、主人公の女性は日曜日にそのケチ男んちをこっそり見に行くのよ。

気持ちわかるわねー!

多分ワンレンヘアに肩パッドがっちり入ったスーツ着て行ったと思うんだけどね。

そうしたらそのケチ男は庭の芝生を刈っていて、奥で子どもの声がするんだよね。

辛い女心だよねー。

奪えるものなら奪いたいあなた・・・・・。

 

ここでそのケチ男が驚愕のダサいジャージ着て首にタオル巻いていて

頭にカーラーつけたまんまの奥さんに

「父さん、ちゃんと刈ってよ」とかガミガミ言われていて

鼻水垂らした子どもが6人くらいギャーギャー騒いでいるといいのにね。

おそ松くんちみたいにね。

ああああっ!て夢から醒めるのにね。

なかにし礼はそんな意地悪書かない。

だからわたしが書いてあげたのよ。

こんな友達がいたな。

不倫中の彼(ナイスなミドルでロマンティックなんだと)

の車のダッシュボードに現像前のフィルムがあったのをこっそり持って来ちゃったんだって。

 

まだ携帯どころかデジカメも無い時代ね。

見たいよね、彼とご家族の姿。

わかる!

一週間後に写真屋さんに受け取りに行って震える手で開けてみると・・・・。

わわわ!

お惣菜がパックのまま並べられたテーブル。

不機嫌そうな奥様と赤ら顔の子ども達。

でも、何より驚愕したのは、食堂の椅子が壊れているのを補修するために白い包帯が巻いてあったってこと。

 

ザブーーーーーーン!って聞こえたそうな。

あ、恋心にかかる冷却水の音ね。

 

ご主人の行動に疑惑を持ったそこの奥様!

素敵すぎるご主人に寄ってくる女性を追い払いたいそこの奥様!

すぐに食堂の椅子に包帯巻いたらいいわよ。

厄払い効果と言うか、魔除けと言うか、みんなの幸せのためと言うか。

そういうこと。

ね、わたしに何でも相談してよー!

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