昭和歌謡シリーズ「淳子の花物語」

 

わたしんちは母亀子(仮名)の遺族年金まで合算して借りた35年ローンのしょうもないマンションなのよ。

今じゃ壁をオレンジ色に塗り替えて料理教室なんてやってるけれども、元々は家族4人で折り重なるように住んでいたわけ。

手狭な部屋に不似合いな広めの庭がついているの。

月に150円も使用料払ってるんだけどね。

遊びに来る人は

「わあ、お庭が広いのね。素敵(他に褒める部分ないから)」

そして

「この庭で野菜を作ったら」とか

「これだけ広さがあればBBQできるわよ」

とか言ってくれるんだけれどね。

そんなの七面倒臭いわよ。

「勝手に柵乗り越えて入っていいから畑やったら?」

って言っても誰も来ないわ。

もう、20年間草ボーボー。

腰まで届く草むら状態を

「そのうち雪が降れば隠れる」

と、見ないふりしてずーっと来たのよ。

雪っていいわよ。

清潔よ。

枯れ草もゴミもぜーんぶ真っ白にしてくれる。

 

最初はそれでも嬉しくて花を植えたんだけどね

ね、知ってる?宿根草じゃないと一年でお終いって。

わたしは

知らなかった。

ギックリ腰になりながら植えた白い花が(名前も忘れた)

数年後には白い花畑になるはずだったのになあ。

 

母、亀子(仮名)が豆子おばちゃん(仮名)と

「札幌ライラック祭り」で行列してタダで貰ってきて勝手に植えたライラックだけは隣の軒まで伸びている。

あ、それと亀子が勝手に植えたアジサイもちんまり生えてる。

どうして親って頼みもしないのに勝手にひとんちの庭に花植えるんだろう。

花ならまだいいか。

隣の若奥さんは、お洒落なガーデニングしていたのにある日見るからに農業従事者の姑が現れて、あっという間に庭に大根とインゲンとほうれん草を植えていたなあ。

 

 

あ、若奥さん引っ越していったわ。

同居するんだって・・・・。

 

そんな草ボーボーの庭だったんだけどね、昨年下野誠一郎さんからライトボディの活性化を受けて急に働き者になっちゃって

ぜーんぶ草を抜いたのよ。

「あれ、意外といい庭じゃん」

と初めて思ったわけ。

 

わたしんちの庭で圧倒的存在感を放っているのが、薔薇。

正確に言うと元薔薇なの。

白い八重咲きの薔薇を植えたのだけれど、花がひとつふたつ咲いてすぐに枯れたの。

「また枯れたな。いいよ、雪が降れば隠れる。清潔!」

と放置していたら次の夏。

部屋でぼーっと草むらを見ていたら、ピンクの花が見えて、思わず目をこすったわよ。

「ねえ、ねえ、昨年の白い薔薇がピンクの垢抜けない花に変身したよ!」

と子どもに言っても誰も興味を示さず。

「ま、雪が降ったら隠れるからいいか」

と放置すること数年。

気がついたらライラックを越す背丈になり、数え切れないピンクの垢抜けない五弁の花をつけるわけ。

秋には赤い実までなっちゃって。

通りがかりの造園業者に聞いたら

「ああ、それノイバラだ。山に行ったらいっぱいあるぞ。薔薇の台にするのに使うのが薔薇が消えておがったんだな。誰も喜ばないぞ」

だってさ。

最初は「垢抜けない」「しみったれた五弁の花」「薔薇のゴージャスさがわたしは好きなのよ」

と毛嫌いしていたはずなのに

うっかりそばに行ったらわたしのもしゃもしゃ頭がひっかかる太い棘がついているんだけど。

ハート型の花びらは散ると地面をピンクハート模様でうめつくす可愛らしさなの。

「何でこうなったかわかんないけど可愛いじゃん」と見直したわけ。

 

 

しかも、肥料のひとつも与えられなくても虫ひとつつかない丈夫さ。

褒められなくても粛々と咲く健気さ。

赤い実が成ってもカラスもスズメも食べようともしないどこからも需要の無い哀れさ。

さらには「お前、喧嘩売ってんのか?」

っていうような牙を剥く棘の逞しさ。

完全に自分と重なるわよね。

もういまとなっては

「のいばらちゃんガンバレ!」と応援しているわけ。

そ。「みさおの花物語」よ。

「この花は私です」

よ!

ところでわたしんちの庭は土は10センチくらいしか載っていなくてその下は石ゴロゴロ。

怪力がシャベルをつき立てたら曲がったんだから。

そのせいか水はけが悪いの。

5年くらい前かな。大雨が降ったときに庭に水がどんどん溢れてあと5センチで部屋まで入りそうになったのよ。

あの恐怖!

しかも見渡してみると他所の庭はスッキリ水が流れてぜーんぶわたしんちに流れ込んでいるわけ。

 

この間の地震もあったし、次は水害かしら。とちょっと怖くなってきちゃってね。

年下なんだけど「みさおのオトウサン」と慕っているボブさん(仮名)にお願いしちゃったよ。

 

「ねえねえボブさん、ボブさんが庭の土を全部掘り起こして、わたしがそこに軽石を撒いて、ボブさんがそこに黒土を撒いたら

きっと葡萄だって収穫できるよ。そしたら自家製密造ワイン造って乾杯しようよ」

とね。

ボブさんオトウサンは優しいから

「いいけど、雨が降った場合の水はどこに流れるの?」

って。

そ、それはね。

モグラの友達を作って、庭から川までに地下通路を掘って貰うの・・・・。

ねえねえ、誰かモグラの知り合いいない?

サングラスかけてる。働き者の!

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