ジョン・レノンになれそうなわたし

母、亀子のお腹の中に置いてきたんだなあ。

と、思う能力が3つある。

方向感覚と、数字認識と、顔認識能力よ。

 

そ、わたしは人の顔が見分けられないの。

子どもの頃、母亀子と亀子の姉の豆子おばちゃんの見分けがつかなかったの。

 

豆子おばちゃんが遊びに来るとどっちがどっちかわからなくなって困ったの。

あ、亀子と豆子は双子じゃないからね。

 

小学校一年生の校外学習で心臓を掴まれるほど驚いたの。

背広を着て会社に行っているはずのお父さんがタオルで鉢巻をして果物屋さんで働いているんだもん。

お父さんの秘密の生活を知ってしまった驚き。

会社に行っているというのは嘘だったんだ。

 

 

家に帰って泣きながら母、亀子に

「お父さんが果物屋さんにいた!」と訴えたの。

 

優しい父が一緒に果物屋さんに行ってくれた。

「操はあの人のことをお父さんだと思ったのか?」

と、言う父の声の色で

ああ、とっても失礼なことをしたのだとわかった。

並べてみたら背格好と黒縁の眼鏡が似ていなくはない程度の人だったの。

 

テレビに出ている人も見分けがつかなかった。

桜田淳子は白い帽子を被っているから山口百恵と違いがわかったのに、帽子を脱ぐとわからない。大変だ!

わからなくて困っているのに追い討ちをかけるように「かくれんぼ」でデビューした石川さゆりが桜田淳子と同じ白い帽子を被っていたのよ。紛らわしいったらないわ。

今では演歌の大御所になった石川さゆりがデビュー当時桜田淳子の真似っこ帽子を被らされていた屈辱に関して膝を詰めて聞いてあげたいんだけどな。

「津軽海峡冬景色」にも「天城越え」からも怨念の匂いを感じるのはわたしだけ?

少女時代の白い帽子の屈辱が今日の石川さゆりの原動力になっていると思うのはわたしだけ?

ついでに言えば、本名が石川絹代なので、結婚していた頃は馬場絹代だったことを気にしているんじゃないかしらと思うのはわたしだけ?

ああ、どうしてわたしはこんなに石川さゆりが気になるのかしら。

 

ピンクレディーはミーちゃんとケイちゃんの体格差で見分けをつけたけれど、キャンディーズのランちゃんとミキちゃんはわからない。

激しく観察して、髪の毛が茶色いのがランちゃんだと憶えた。

スーちゃんはぽっちゃりしているからわかる。

石川ひとみと倉田まり子も見分けがつかない。

よおく見ると顔幅が広めで髪の毛がくるんとしているのが石川ひとみで、おでこに前髪が張り付く感じで髪質に腰が無いのが倉田まり子よ。

郷ひろみと若人あきらはさすがに見分けがついたけど、西城秀樹と弾ともやは厳しい。

豊川譲と荒川務もわからない。

マッチと新田純一の違いがわかる人っているの?

マッチのファンの中森明菜がマッチと付き合う前に新田純一と付き合っていたと言う噂は明菜が二人の見分けがつかなかったからだと言うのがわたしの読みなんだけど。

 

少年隊はニッキとカッちゃんの見分けがつかないし、光GENJIは諸星以外は全員同じ。

延々と書いても誰も喜ばないと思うからこの辺で止めておくけれど、これはきっと病名がつくほどのことだと思うのよ。

 

そんなわたしが離婚をしてデパートの婦人服売り場で働いたの。

中年のオバサン向けのショップよ。

 

客層の80%が「小太り、パーマかけたショートヘア、眼鏡」なの。

お客様のお名前とお顔を憶えて

「あ、○○様、先日のセーターはお気に召していただけましたか?」

と言うのが仕事なんだけどね。

皆同じ顔に見えるのよ。

顧客台帳にお買い上げの品やエピソードを書いて憶えるんだけど、見かけの特徴が

「小太り、ショートヘア、眼鏡」ばかりなんだもん。

下手な似顔絵まで描いて憶えようとしてもみんな同じ。

 

苦肉の策で腕時計や財布の形を憶えて見分けるんだから、苦労したわよ。

愛想だけはいいから、

「あ、いつもありがとうございます」と当たり障りの無いことを言って、顔認識の引き出しが3つくらいしかないからそのごちゃごちゃの引き出しの中をかき回してお客様のエピソードを探すの。

欠損した顔認識能力を補うために、エピソード記憶能力は高いので、

「この間の温泉旅行に買ったワンピースがね」

と言ってくれると

「高校のクラス会ですね、花巻温泉はいいお湯でしたか?」

と続くわけ。

 

こんな脳味噌だから、世間の皆さんが楽しめることを楽しめないの。

 

大相撲は年中やっているらしいけれど

力士はみんな太って髷を結っているんだもん。

ガイジン力士だけはわかるかな?と思ったけれど

ずっと曙と武蔵丸が同じ人だと思っていたことが判明した時にはちょっと恥ずかしかった。

 

駅伝はどうやら「昨日頑張ったあの人を今日も応援しよう」という楽しみで正月早々2日間に渡って観るものらしいが

わたしにとっては、見ず知らずのお兄ちゃんが集団で走っているだけで何が何だかわからない。

 

「夢の世界なのよ」と勧められて宝塚を観に行った時には途中で帰りたくなったの。

プログラムを見てもみんな同じ顔。

舞台の上のみなさんもみんな同じ顔。

折り悪く戦争ものだったからみんな軍服。

 

だから映画も

「ローマの休日」みたいな出演者が極端に少ないものは楽しめるけれど

「愛と青春の旅立ち」みたいな制服を着た人がいっぱい出るものはさっぱりわかんない。

 

いまのわたしはテレビを見なくなったので、自分の顔認識能力が衰える一方だということさえわからなくなっている。

かなりまずいところまで進んだ気がするのだけれど、手の打ち様がないのよ。

脳トレの顔の見分けバージョンなんてないもんね。

 

このままで行くといつか息子達の顔も見分けがつかなくなるのかな。

 

180センチ超の長太郎だけは体格でわかるのかなあ。

白二郎と甘三郎はヘアスタイルで見分けるようになるのか。

 

ところでね、スピリチュアルな教えでは

「人はみんな愛の成分だけで作られている」

「人は全て平等で繋がっている」

「The Law of One」

と言われているの。

全くその通りなんだと思うのよ。

でもね、やっぱりわたしは我が子に命の危機があったら躊躇わずに相手に噛み付く母猫だしね。

大好きな山川ご夫妻にお会いしても、著作を読んでも、嫌いな人の数はゼロにはならないのよ。

我侭放題のまま55歳になっちゃったよ。

 

 

ああ、でもね、こうして歳をとって、みんな同じ顔に見えるようになったときにわたしは

金子みすゞになれるのかしら。

ほらほら、みんな大好きなあれよ。

「みんなおなじでみんないい」

ん?ちょっと違うか。

 

ジョンよ!

ジョン・レノンよ!

イマジン・オールザピープルのあの境地よ。

 

ボケてから悟っても遅いか。

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