地球に優しくない子ども達

双子の白二郎と甘三郎は8ヶ月の早産の極小未熟児だった。

助からないかも。と随分心配をしたのだけれど、小児センターのお蔭で普通の新生児の大きさにまでしてもらった。

退院してきた白二郎は、目ばかりぎょろっとした、宮澤さん(総理大臣のね)もしくは、ヨーダみたいな不敵な顔の赤ん坊だった。

甘三郎は、「この子が女の子だったら」と言われる可愛らしい赤ん坊だった。

出産ボケしていたわたしは、あまりみんなに「女の子みたい」と、言われてなんだか女の子を育てている気持ちになっちゃった。

ピンクのベビードレス着せてウキウキしちゃううんだけど、オムツを取り替えるときに現実に気付いてギョッとする。

産後の頭ってかなり緩んでいるのよ。

授乳していると自然に口呼吸になって、

「あ、いままた脳味噌が溶けている」って思った。

でも、女の子を育てる擬似体験はわずかな時間だった。

裸にしたふたりを見比べると甘三郎は明らかに肩幅が広い。

肘の関節も、握った拳も華奢な白二郎の一回り大きい。

甘い顔立ちにごつい身体つきの不自然な赤ん坊は、離乳食を始めると仰天するほどの大食いだった。

 

赤ん坊ふたりをベビーチェアに座らせて交互に食べさせるの。

ひな鳥のお母さんになったみたいで楽しいの。

でもね、甘三郎はあっと言う間に飲み込んで、白二郎がもぐもぐする横で大きく口を開ける。

そうなると、白二郎も負けずに食べる。

うどん用のおどんぶりにたっぷりいれた離乳食があっと言う間になくなる。

慌てて作り直してまた食べる。

ふたりは競って口を開けるので、せかされてどんどん食べさせてしまうわたし。

その食べっぷりを見たわたしの父が、

「こんなに食べさせたら病気になってしまう。甘のペースに合わせてはいけない。白のペースで食べさせなさい。」

と、したくない口出しをしたっけ。

 

それくらいの大食いだったの。

 

1歳を過ぎると、当時の料理の流行、平野レミさんを真似て作る大皿料理を子どもたちは競って食べていたのだけれど、その食べっぷりに仰天した母、亀子が

「競って食べたら食べ過ぎる。それぞれのお皿によそわなくては。」

と、呆れて口出しをした。

 

三人一緒に食べるおやつの時間、白二郎はまず左手におやつを握り締めてから右手で食べるようになった。

長太郎と甘三郎が食べ終わってから、おもむろに左手の中のおやつを食べる。生活の知恵。

 

そのうち、白二郎は押入れの中におやつを隠す方法も編み出した。

この方法は三人の間で大流行して、布団の間から溶けたチョコレートやかびたクッキーが発見されるようになり禁止にした。

リスが隠した木の実だったらそこから樹が生えるんだけどね。

数年後の引越しの時にはとんでもない場所からお菓子のミイラが続々出てきた。

 

 

そんな三人が母子家庭の子どもになったの。

 

働きながら子どもと暮らしていると、当然晩御飯問題に直面する。

近所に住む母亀子(仮名)に頼るのは限界がある。

デパートの遅番を終えて帰るともう子ども達は寝る時間。

朝早く起きて、おやつも晩御飯も作ってから出勤する頑張り屋の母子家庭のお母さんがいっぱいいるのは知っているんだけれども、生来の怠け者なんだもん。

そんなこと三日続けたら疲れて寝込んじゃう。と、思う。

だからってコンビニのおにぎりやお弁当は好きじゃないの。

あれって高いでしょ。買ったことないからわかんないけど。

お腹一杯食べさせようと思ったらいくらかかるの。

で、思いついたのが炒飯。

ごはんを炊いておいて、チャーシューは作っておく。

長葱は3年生の長太郎だったら切れるよね。

ホットプレートで卵を炒めてからご飯とチャーシューと長葱を炒めて、チャーシューの醤油だれを仕上げにかけたら出来るんだもん。

胡椒をガリガリひいてかけたら美味しいよね。

遅番の日は炒飯に決定したわけ。

お休みの日に、これ豚何頭分?の大量チャーシューさえ作っておけばいいじゃない。

段々手を抜いて、チャーシューも自分達で切れるよね。

お米研いで自分でご飯炊けるよね。

あ、ついでにスーパーで卵と長葱買っておいて。

と、子ども達の仕事が増えて行く。

遅番で帰ると子ども達がわたしのために炒飯を作ってくれるようになったんだけれど、これが美味しいのよ。

自分で作ると、ケチケチとチャーシューを小さく切るのだけれど

常に「いっぱい食べたい」って思ってる子ども達が作るとチャーシューが大きいわけ。

卵も多いわ。

いいよ。豚肉と卵くらい安いものよ。

自分達でご機嫌で作ってお腹一杯食べているんだもん。

何の文句もない。

ホットプレートの周りにご飯と長葱が盛大にこぼれていたって大したことじゃない。

部屋乾しの洗濯物が醤油の香りになったっていいわよ。

問題は、ご飯お腹いっぱい食べたはずの甘三郎がわたしと一緒にもう一度大盛り炒飯を食べること。

 

休みの日にはお肉やさんに行って豚の塊肉をいっぱい買う。

豚供養しなくちゃならないくらいに炒飯を作り続けた我が家。

 

話はちょっと戻って、ある時に知人が

「三人分の給食費ってかなり払うんでしょ?」

って子ども達の前で聞いた。

「いやあ、母子家庭だからね、無料なのよ。助かるわあ。」

それを聞いた子ども達、目を丸くして一瞬黙った。

あ、まずいこと聞かせちゃったかな。

僕達、母子家庭だから。って肩身の狭い思いしちゃうかな。

できれば子どもがいない時に聞いて欲しかったなあ。

 

ところが彼らの反応は

「ええっ?タダ?そうだったの?わーい!バイキングだあっ!」

と小躍りしてるの。

ああ、うちの子あっさりしていていいわ。

この子たち、育てやすいわ。

 

 

 

ところが、甘三郎の担任から

「心配なことがあります」と呼び出されちゃったよ。

 

え、何かしたのかな。

「甘三郎くんはあんなに給食を良く食べたのに最近はお替りもしなくなりました。理由を尋ねてももじもじして何も言いません。

顔艶は相変わらず良く、痩せた様子もありませんが、思い当たる節はありますか?」

って。

 

先生ゴメンナサイ。

甘三郎はバイキングの給食を目一杯食べていたのですが、豚供養するほど大きなチャーシューの入った炒飯の魅力には勝てないのです。

 

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